展覧会概要


IO-2: 現代ダゲレオタイピスト展「Care」

日時: 2021年10月8日(金) 〜 11月16日(火) 月〜土 11:00-18:00 /日祝休館 【11月7日(日) はArt Week Tokyo参加のため開廊します】
*新型コロナウィルスの状況により変更の可能性あり
場所: PGIギャラリー 〒106-0044 東京都港区東麻布2-3-4 TKBビル3F
https://www.pgi.ac/
入場無料

コンテンポラリー・ダゲレオタイプス日本委員会はPGIとの共催により「ケア: 今日のダゲレオタイプ──不確実性の時代のために」をテーマに展覧会を開催します。
Care/ケアという言葉は今、私たちに様々な意味を想起させます。多発する災害や紛争、そしてパンデミックに翻弄されながら生きるこの不確実性の時代において、写真は何をうつしとるのでしょうか。家族や社会、自己、他者、出来事の当事者について考える時、写真というメディアがその始まり──すなわちダゲレオタイプが発明された瞬間から、私たちの生とってどのような意味を持ちつづけてきたのか、改めて考えることがこの展覧会の目的です。
ダゲレオタイプを中心とした世界でも稀な本展で、新井卓、ビン・ダーン、ジェリー・スパニョーリ他の特別展示作品とともに、公募展の入賞作品が一堂に会します。

1839年、写真の歴史はダゲレオタイプ(銀板写真)の登場とともに幕を開けました。それから180余年、メディアの発達とともに、写真は〈現実〉を切り取って他者と共有し、人々を動機づける手段としてあらゆる分野で活用されてきました。しかし19世紀当時──とりわけ複製不可能なダゲレオタイプが主流だった時代には──写真は、家族や愛する人々、自分自身の姿をはるか未来に運ぶための〈記憶装置〉として求められ、市井の人々が特別な感情をこめて営む行為だったのです。
2011年の東日本大震災直後、津波で流出し浜辺に打ち上げられた家族写真をボランティア・グループが洗浄し犠牲者の親族に返還した活動は、いまだ記憶に新しい出来事です。一度は忘れられたかに思えた名もなき人々のための〈記憶装置〉としての写真の価値は、21世紀においても決して失われていなかったことが、そのとき明らかになりました。
多発する災害や紛争、そしてパンデミックに翻弄されながら生きる不確実性の時代。生と死の意味について、また他者へ手を差しのべることについて、わたしたちは一人一人、自問をはじめたのではないでしょうか。「ケア」の時代──〈記憶装置〉 としての写真/記憶をもった鏡・ダゲレオタイプに、いま、わたしたちの姿はどのように映るのでしょうか。

コンテンポラリー・ダゲレオタイプス日本委員会 Contemporary Daguerreotypes Japan Committee
代表 新井 卓(あらい  たかし/アーティスト・映画監督)

特別展示作品作家

Photo: Anton Orlov, 2015

新井 卓(あらい  たかし)

1978年神奈川県川崎市生まれ。写真の原点を探るうち最初期の写真術・ダゲレオタイプ(銀板写真)を知り、試行錯誤ののち同技法を習得。対象に出会ったときの感覚を、時間と空間を超えて、見るものに生々しく伝えることのできる<小さなモニュメント>として、自身のメディアとしてきた。2014年に英国ソースコード・プライズ(現 The Solas Prize)、2016年には第41回木村伊兵衛写真賞、日本写真協会賞新人賞、神奈川文化賞未来賞を続けて受賞。2018年、映像詩『オシラ鏡』で第72回サレルノ国際映画祭短編映画部門最高賞。スミソニアン博物館、ボストン美術館、サンフランシスコ近代美術館、東京国立近代美術館、東京都写真美術館、ギメ美術館ほか多数の美術館に作品収蔵。

ビン・ダーン(Binh Danh)

1977 年ベトナム生まれ、アーティスト、サン・ノゼ州立大学助教授(写真学)。ダンはベトナム移民の歴史、 とりわけベトナム戦争に取材した作品でアメリカ国内の美術シーンで注目を集め、その後クロロフィル・プリ ントやダゲレオタイプなど様々な写真技法を横断的に使用しながら、活動を継続してきた。近年のプロジェクトに、オルタナティヴ・プロセス(個展写真技法)を駆使して制作する「戦場」のランドスケープ・シリーズ、ダゲレオタイプによるアメリカ国立公園に関するシリーズなどがある。サンフランシスコ近代美術館、フィラデルフィア美術館、ジョージ・イーストマン博物館、デ・ヤング美術館ほか美術館に作品収蔵多数。

photo: Alexander Dzhus

マイク・ロビンソン(Mike Robinson)

1961 年カナダ生まれ、ダゲレオタイピスト。2017 年にロビンソン氏が発表した『The Techniques and Ma- terial Aesthetics of the Daguerreotype(ダゲレオタイプ技法と素材の美学的特質)』は、長年にわたって氏が確立したダゲレオタイプ技法に関する膨大な知見と歴史的資料の考察に基づいて、同技法の美的要素を科学 的に考察した革新的な論文として注目を集める。ロビンソン氏はダゲレオタイプ製作のための各装置を独自に改良し、アパチャー財団、ジョージ・イーストマン・ハウス、フォックス・タルボット美術館をはじめ各国でワークショップ、レクチャーなどを行い技法の普及に貢献してきた。『Young America; The Daguerreotypes of Southworth and Hawes(ヤング・アメリカ: サウスワーズ・アンド・ホーズのダゲレオタイプ)』 (2005、スタイデル)、『Coming into Focus(カミング・イントゥ・フォーカス)』(2000、ウロニクル・ブ ックス)ほか共著多数。

ジェリー・スパニョーリ(Jerry Spagnoli)

ニューヨークを拠点に、歴史の個人的な経験と、それを客観的に記録する写真技法のあり方に関心を寄せ、写真の古典技法に取り組む先駆者として活躍を続ける。2019年にSteidl社から出版された最新作『Regard』を含めた多くの書籍や出版物に作品が掲載。また、ホイットニー美術館、ボストン美術館、ナショナル・ポートレート・ギャラリー、ネルソン・アトキンス美術館、フォッグ美術館、その他の美術館に収蔵されている。

クレッグ・タフェン(Craig Tuffin)


1969年、オーストラリア生まれ。ニューサウスウェールズ州北部のトゥイード・コースト在住アーティスト、教育者。30年以上の幅広い写真教育の経歴を持ち、オーストラリアの州立学校で唯一の「19世紀の写真プロセス」を主眼におくカリキュラムを設立。ブリスベン博物館では、19世紀の写真撮影方法のコンサルタントを務める。また、多数の写真集や国内外の展示において作品を発表。ゲティ学術研究所、オーストラリア国立美術館、クイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州の州立図書館などに作品が収蔵されている。

公募入賞者

Grant Romer (USA)
望月容子 Yoko Mochizuki (Japan)
Simone Choulle aka Nina Zaragoza et Hélène Vedrenne (France)
Åke Hultman (Sweden)
Anton Orlov (USA)

公募について
この公募は現代においてダゲレオタイプに取り組むすべての人々に開かれたものです。
今回は日本、アメリカ、フランス、スウェーデン、イタリア、コロンビアの6カ国から17の熱意のこもったエントリーがあり、審査員の評点の拮抗する非常に難しい審査となりました。本来であれば応募作品全てについて表彰すべき内容でしたが、唯一無二の美しさをたたえるダゲレオタイプ作品のそれぞれに敬意と感謝を捧げます。

公益財団法人 ポーラ美術振興財団 POLA ART FOUNDATION
ARTS COUNCIL TOKYO
NOMURA 野村財団

助成:公益財団法人ポーラ美術振興財団 / 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 / 公益財団法人野村財団